尿崩症と多飲症ではともに薄い尿が増加するのに、
血漿浸透圧(血中ナトリウム)は真逆なのって覚えにくい。
鑑別方法と負荷試験について教えて欲しい。
こういった悩みを解決します。
本記事では
- 多尿の鑑別のフローチャート
- 尿崩症と心因性多尿の違い
- 負荷試験
について解説します。
多尿の鑑別のフローチャート
①浸透圧利尿か水利尿か?
尿濃縮は浸透圧の差を利用し、
原尿(浸透圧が低い)中の水分が間質(浸透圧が高い)方向に移動することによって起こります。
尿濃縮のメカニズムは↓コチラで説明しています。
なぜ腎性尿崩症の治療にサイアザイド系利尿薬?作用機序と覚え方・ゴロ
浸透圧利尿とは?
浸透圧利尿とは、浸透圧の差がなくなって、尿が濃縮されず多尿になる現象です。
例)
原尿中にタンパク質(アルブミンなど)やグルコースといった浸透圧物質が増加することで、
尿細管中と間質の浸透圧の差が減少し、水分が再吸収されない。
したがって、蛋白尿がみられる腎障害や、尿糖が陽性になる糖尿病で浸透圧利尿が起こります。
糖尿病で尿量が増加するのは有名だね!
これ以外の機序(心因性多飲症や尿崩症)で、尿量が増える場合を水利尿と言います。
浸透圧利尿と水利尿の鑑別
尿浸透圧を測定し、
- 等~高張尿だったら浸透圧利尿
- 低張尿だったら水利尿
と分かります。
今回は水利尿の鑑別について、詳しく解説するよ!
心因性多飲症と尿崩症の鑑別と負荷試験
AVP:Arginine vasopressin=ADH:抗利尿ホルモンantidiuretic hormone
心因性多飲症 | 尿崩症 | |
---|---|---|
夜間尿 | なし | あり |
血漿浸透圧 (血中ナトリウム) | 低下 (<275mOsm/L) | 上昇 (>275mOsm/L) |
尿浸透圧 | 低下 (<100mOsm/Lが多い) | 低下 (<200mOsm/Lが多い) |
尿浸透圧と血漿浸透圧 | 尿浸透圧<血漿浸透圧 | 尿浸透圧<血漿浸透圧 |
水制限試験 | 尿浸透圧>血漿浸透圧 | 尿浸透圧<血漿浸透圧 |
高張食塩水負荷試験 (高張Na負荷試験) | AVP増加 | 中枢性:AVPの増加反応欠如 腎性:AVP過剰反応 |
バソプレシン試験 | 行わない。 | 中枢性:尿浸透圧>血漿浸透圧 腎性:尿浸透圧<血漿浸透圧 |
心因性多尿症と尿崩症の血漿浸透圧の覚え方
意識すべきは
- 心因性多尿症:飲むから出る
- 尿崩症:出るから飲む
ということです。
初学の時はよく理解してなくて、迷ったことがあります汗
- 心因性多尿症では、飲む(=血漿浸透圧低下)から尿が出る。
- 尿崩症では、尿が出る(=血漿浸透圧上昇)から飲む。
といった順番に違いがあります。
共に低張な尿が出るので、「脱水みたいに、血漿浸透圧が上昇?」と迷う人は、
↑の考え方・覚え方を意識してみてください。
水制限試験とは?
水制限試験とは?(3%体重減少法)
体重が3%減少するまで飲水制限を行い、尿浸透圧と血漿浸透圧を調べる方法です。
心因性多飲症では、
- ①水制限によって血漿浸透圧の上昇し、
- ②AVP分泌増加し尿浸透圧上昇・尿量減少。
- ③『尿浸透圧>血漿浸透圧』となります。
尿崩症では
- ①水制限によって血漿浸透圧が上昇するものの、
- ②AVP分泌が無いor反応しないため、尿浸透圧不変・尿量不変。
- ③『尿浸透圧<血漿浸透圧』のままとなります。
高張食塩水負荷試験(高張Na負荷試験)とは?
高張食塩水負荷試験(高張Na負荷試験)とは?
5%食塩水を点滴静注して、AVP濃度(と血漿浸透圧)を調べる方法です。
心因性多飲症では、
血漿浸透圧上昇を感知し、AVPが分泌されるため、AVPは増加します。
中枢性尿崩症では、
血漿浸透圧が上昇しても後葉からAVPが分泌できないため、AVP増加反応が欠如します。
腎性尿崩症では、
すでにAVPが分泌されている状態なので、AVP高値のまま(or過剰反応)がおこります。
まとめると、
水制限試験で尿浸透圧上昇したり、
高張食塩水負荷試験でAVPが分泌される=尿浸透圧上昇する
良いやつが心因性多飲症。
バソプレシン試験とは?
水制限試験と高張食塩水負荷試験(高張Na負荷試験)によって、心因性多飲症を除外し、
そのあと「中枢性尿崩症or腎性尿崩症」を鑑別するためにバソプレシン試験を行います。
バソプレシン試験とは?
酢酸デスモプレシン(ADH製剤)を投与して、尿浸透圧を測定する方法。
中枢性尿崩症では、
腎の反応性は保たれているため、ADH製剤に反応して尿浸透圧が上昇。(尿浸透圧>血漿浸透圧)
腎性尿崩症では、
腎の反応性が低下しているため、ADH製剤に反応せず、尿浸透圧の上昇は見られない。(尿浸透圧<血症浸透圧)
確認問題:医師国家試験に挑戦!
医師国家試験【108C5】
浸透圧利尿による多尿をきたすのはどれか。
a 高血圧
b 糖尿病
c 尿崩症
d 慢性腎盂腎炎
e うっ血性心不全
答えは b
医師国家試験【102I56】
35歳の男性。口渇を主訴に来院した。生来健康であったが、1か月前から口が異常に渇き、お茶やジュースなどを1日約5リットル飲むようになった。尿量も多く、夜間に3回以上排尿のために覚醒するので睡眠も障害されるようになった。意識は清明。身長172cm。体温36.7℃。脈拍80/分、整。血圧120/76mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)。尿量4,500ml/日。血液所見:赤血球520万、Hb 14.5g/dL、Ht 48%、血小板25万。血液生化学所見:血糖85mg/dL、HbA1c 5.2%(基準4.3~5.8)、総蛋白7.2g/dL、アルブミン5.2g/dL、尿素窒素24.0mg/dL、クレアチニン0.9mg/dL、尿酸7.5mg/dL、総コレステロール215mg/dL、AST 32U/L、ALT 28U/L、LD 220U/L(基準176~353)、Na 147mEq/L、K 4.2mEq/L、Cl 105mEq/L、Ca 9.2mg/dL、P 4.0mg/dL。尿浸透圧:デスモプレシン〈DDAVP〉5μg点鼻投与前160mOsm/l、投与後460mOsm/l。
この患者にみられるのはどれか。
a 網膜の軟性白斑
b 視床下部の口渇中枢障害
c バソプレシン受容体機能低下
d 5%高張食塩水負荷でバソプレシン分泌反応低下
e 頭部単純MRIのT1強調矢状断像で下垂体後葉の信号強度の増強
答えは d
多尿の鑑別の問題。
夜間に3回以上排尿のために覚醒する→心因性多尿は否定的
血糖85mg/dL・HbA1c 5.2%→糖尿病による浸透圧利尿は否定的
デスモプレシン〈DDAVP〉5μg点鼻投与前160mOsm/l・投与後460mOsm/l→中枢性尿崩症と診断
中枢性尿崩症での5%高張食塩水負荷=高張食塩水負荷試験ではAVPの増加反応欠如が特徴的で、
増加反応欠如は選択肢dの「反応低下」と表現されている。
健常人の頭部単純MRIのT1強調矢状断像で下垂体後葉は高信号であり、中枢性尿崩症では低信号となる。
終わりに
お疲れ様でした。
参考になれば幸いです。
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