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【医療崩壊】研修医1人で全身麻酔。死ぬ患者。【社畜医生存日記7】

【医療崩壊】研修医1人で全身麻酔。死ぬ患者。【社畜医生存日記7】

研修医1年目、今日は生きている。

自分が生きた記録を残しておこうと思う。

全財産は妻に譲ることにした。

遺書ではない。

ただの雑務日誌である。

労働基準監督署に提出すれば3秒で燃えるだろう。

いつかは人手不足が解消された世界で生きてみたい。

それこそが私の夢見る異世界転生である。

前回の日記のように人手不足は深刻である。

それは医療の質だけでなく、運営の存続という観点からも深刻である。

同期が嘆く。

「俺、週7で麻酔オンコールだよ。」

「俺、モニターの音が頭から離れない。」

「俺、怖くて……もう麻酔かけたくない。」

だれも仕事を辞めたいとは言わなくなった。

その決断をする気力すら残っていない。

入職数週で、すでに調教済みである。

そんな同期を励ましつつ、麻酔科研修チェックノートを読み込んでいた。

夜間の緊急手術に備えて。

呪文書のような厚みである。

読破しても患者、そして自分の生存率はそれほど上がらないだろう。

呪文を詠唱しても誰も召喚できない。

自家麻酔を知っているだろうか。

一般に、手術では麻酔科医が全身麻酔をかけて、外科医が手術を行う。

つまり、麻酔チームと手術チームの2チーム戦法である。

しかし、人手不足が末期な地方では外科医が麻酔も手術も行う。

これを自家麻酔と呼ぶ。

都会で働く医師にとっては異世界コンテンツであろう。

実は日本国内でも異世界を味わえる。

M3では自家麻酔についてこう言われていた。

「時代錯誤である。」

「倫理的に許容できない。」

「1人で麻酔と手術を行うことは大変危険。」

「麻酔科医がいないのに全身麻酔をするのは不適切である。」

すべて正解である。現実を考慮しなければ。

当院は人手不足が完成形に到達した超急性期病院である。

そして、緊急手術が日常業務である。

急性大動脈解離→緊急手術

転移性脊椎腫瘍→緊急手術

開放骨折→緊急手術

下部消化管穿孔→緊急手術

絞扼性腸閉塞→緊急手術

壊死性筋膜炎→緊急手術

急性硬膜外血腫→緊急手術

小脳出血→緊急手術

救急外来で被殻出血が3件同時に来た日は、ERも手術室もICUもパンクした。

全例手術。救急車だけでなく、手術室も順番待ちである。

正に詰みである。

しかし、その緊急手術の麻酔をかける麻酔科医はいない。

ここまで生存日記を読んでくれた人は分かってしまうだろう。

そう。

当院の全身麻酔は研修医が担当する。

医師免許取り立て、責任は無限。

失っても代替が効くと信じられている消耗品。

これは自己紹介である。

入職後1週間、日中の麻酔科研修で知識を叩き込まれた。

研修医1年目で麻薬施用者免許を受け取った。

そして言われた。

「じゃ、今夜から全身麻酔よろしく。」

引継ぎ資料はもちろん無い。

研修医1人で導入、維持、覚醒を行う。

麻酔薬の準備。

麻酔器のセットアップ。

IV line。

挿管。

トラブル対応。

挿管時であっても研修医以外の医師はいない。

横に付いてくれる2人の看護師だけが頼みの綱である。

全てがソロプレイである。コンティニューは出来ない。

トラブルシューティングを行える人間はいない。

あの時の手に汗握る感覚が忘れられない。

記録は全て研修医の名前で残る。

電子カルテは優秀だ。

責任の所在だけは自動で保存される。

麻酔に無関心な執刀医に言われる。

「肩の力を抜け。」

「機能予後改善じゃない。救命だ。」

「麻酔科がかける高度な麻酔は要求していない。」

「死ななければいい。生きて手術室を出られれば100点だ。」

評価基準がまるで小学校の遠足レベルだ。

しかし、これが難しい。

日中は外来と病棟で消耗し、深夜は麻酔で精神を削る。

何十人もの人に全身麻酔をかけた。

入職前に上司に言われたことを思い出した。

「いくつもの修羅場を潜り抜けた結果、性格が歪む。」

そんな日常の一部を記録する。

「緊急手術の連絡です。」

病院に来て10日程度。

初回は研修医2年目の全身麻酔を見学した。

血圧40。昇圧。

血圧240。焦る2年生。

ジェットコースターだった。

人生初めて乗ったスペースマウンテンより乱高下が激しい。

今回は安全バーは無い。

その夜、脳に刻まれた。

ミス=死亡。

これが令和の医療である。

ほぼ寝られないまま翌日日勤、そのまま当直。

そして当直翌日、また悪夢が召喚される。

「緊急手術の連絡です。」

ウンペリ、敗血症性ショック、DIC。

(汎発性腹膜炎:panperitonitis ≒ パンペリ、下部消化管穿孔に伴うウンチによるものをウンペリと呼ぶ。)

補液、輸血、ノルアド。

何とか手術は終わったが、血圧が戻ってこない。

これでは、手術室を出られない。

すでに外科医はいない。

研修医だけでCV挿入し手術室で管理、バイタル安定後、ICUに運んだ。

そろそろ何日間まともに寝ていないのか分からなくなった。

また病院からだ。

「緊急手術の連絡です。」

血圧は測定不可。

「ポンピングして!!!!!」響く怒鳴り声。

50ccシリンジで外液を押し込む。

何度も何度も繰り返す。

医学的というよりは物理作業である。

その後は想像にお任せする。

別の日。

「緊急手術の連絡です。」

抗血栓薬内服中の脳出血。

術野は血の噴水。

外科医の顔面が赤く染まる。

それでも微動だにせず手術を続ける。

血は永遠に止まらない。

モニターアラームが鳴った。鳴ってしまった。

最善を尽くしたが血圧が低かった。

「昇圧剤どれくらい?」

「ノルアド3A50mlで時間15mlです。」

数秒の沈黙。

「……インオペで。」

インオペとはinoperable(手術不可能)の意味である。

その判断基準が経験値数日の研修医がかける全身麻酔に大きく依存している。

脳浮腫が進行し、開頭部位から脳が飛び出ている。

硬膜縫合を試みるも、間から湧き水のように血があふれてくる。

脳内は満員電車の状態だが、骨を無理やり押し込み閉創する。

四次元ポケットは存在しない。

結末は省略する。

これが、日本で現在稼働している医療である。

無秩序だが、個人個人が最善を尽くしている。

看護師も同様である。

ER看護師、オペ看、ICU看護師、全員が最善を尽くしている。

夜中3時。看護師は患者をICUに運び、そのまま次の手術の器械出し。

休憩?

あるわけがない。トイレは贅沢品である。

研修医が自殺すると労働環境が問題となるが、看護師が倒れれば体調管理が甘いと詰められる。

報道は言う。

「医療崩壊が起こり得る未来」を。

違う。

もうすでに起きている。

静かに、全国で生じている。

必要な人材を確保できておらず、統一化されていない医療が行われている。

特に夜間の緊急手術や当直が深刻だが、日中も例外ではない。

そのツケは現場にいる医療従事者が命を削って払っている。

さらに、その結果が患者に反映されている。

家族の怒りは医師へ向かう。

暴言と悲鳴は看護師が受け取る。

学生の頃は命は平等だと信じていた。

でも現場では違う。

救える命には上限がある。

これは理想論では覆らない物理法則だ。

今までの日記を読んでほしい。

この状況では医療業界の発展、もはや維持が難しい。

始まる。

命の選別が。

今日は誰を手術するのか。

これを会議ではなく廊下で決める時代が到来している。

我々は医療崩壊の最前線で勤務している。

そのうちニュースになる。

同期と、看護師と、お互いの目のクマを確認しながら今日も働く。

「まだ生きてたか。」

それが朝の挨拶である。

すべての人間に幸福が訪れることを願う。

ただし、勤務時間外で。

社畜医、今日も生存。

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