Sheehan症候群ってACTH欠損で
アルドステロンが低下するんじゃないの?
カリウムが正常なのは何で?
こういった悩みを解決します。
本記事では、Sheehan症候群の病態の覚え方・ゴロに加えて、症候を徹底的に解説します。
いろんな分野で役立つ知識をまとめてみたよ!
Sheehan症候群:シーハン症候群
Sheehan症候群の定義の覚え方・ゴロ
覚え方:シーハン症候群(Sheehan症候群)
シー→死→壊死
ハン→下垂体の半分(前葉)
シーハン症候群って変な名前だけど、
「半分が死~ハンシ~ハンシ~ハンシ~」
って唱えてたら覚えられます。
したがって、Sheehan症候群は
- 下垂体前葉の壊死による下垂体前葉機能低下
と分かります。
特に、有名なキーワードが「分娩時の大量出血」だね!
大量出血→虚血→壊死
他にも「輸血歴」があったら、大量出血の可能性を考えよう。
【Sheehan症候群の発生機序】なぜ『分娩時』の出血なのか?
妊娠時は非妊娠時に比べ大量のホルモンが必要となるため、
下垂体前葉の大きさは通常の2倍に増大しています。
したがって、非妊娠時よりも多くの血流が必要になっています。
(=虚血の影響を受けやすい状況。)
そこで大量出血が起こると下垂体前葉への血流が少なくなり、壊死してしまうのです。
非妊娠時に出血しても
下垂体前葉は小さい(血液の必要量が少ない)から壊死しにくい。
妊娠時に出血すると
下垂体前葉は大きい(血液の必要量が多い)から壊死しやすい。
っていうことね!
Sheehan症候群でなぜカリウムが正常なのか?
医師国家試験【107D9】【108D59】で出題された知識『Sheehan症候群ではKに異常は見られない』について、
深堀していきます。
知識の整理
- Sheehan症候群では前葉から分泌されるACTHが欠損する。
- ACTHは副腎皮質に働きかけ、
「アルドステロン(Ald)・コルチゾール・アンドロゲン」の分泌を促進する。 - ただし、アルドステロンはACTH以外に、RAS(レニン・アンジオテンシン系)にも支配されている。
- 「アルドステロン・コルチゾール」はステロイドホルモンであり、
類似骨格(ステロイド骨格)を持つため、作用を共有する。
例)コルチゾールにはアルドステロン様作用がある。
- コルチゾールはADH(バソプレシン)と拮抗する。
例)コルチゾール低下にてADH上昇、コルチゾール上昇にてADH低下。
医師国家試験【115B48】の仮面尿崩症の病態の理解に必要な知識。
成書によって、意見が分かれるけど、
すべてを辻褄を合わせるとこんな感じ。
【①初期】
まず、Sheehan症候群ではACTH欠損により、
アルドステロン・コルチゾール・アンドロゲンは低下します。
アルドステロン分泌低下+コルチゾールのアルドステロン様作用低下に伴い、
一過性に、血中Naナトリウム低下・血中Kカリウム上昇傾向になります。
(※医師国家試験【106回】で出題された状態、記事下部に記載)
【②慢性期】
次に、コルチゾール分泌低下に伴い、
ADHバソプレシンの分泌が促進され、水分の再吸収が促進されます。
水分の再吸収促進に伴って、血中Naナトリウム・血中Kカリウムともに希釈されます。
(※医師国家試験【108回】で出題された状態、記事下部に記載)
①+②より、慢性的な背景で
『血中Naナトリウムはさらに低下しますが、血中カリウムは正常なことが多い』ということです。
基本は低Na+正常Kで考えるべきだけど、
一部でKが上昇してる場合もあるから、総合的に判断しよう。
【Sheehan症候群の慢性的な背景でアルドステロンの分泌は正常】
アルドステロンは
- ACTHによる分泌促進
- RAS(レニン・アンジオテンシン)による分泌促進
の2重支配を受けているホルモンです。
Sheehan症候群の初期(上記の①の状況)ではATCHが急激に低下するためアルドステロンの分泌は低下しますが、
Sheehan症候群の慢性的な背景(上記の②の状況)では、RAS(レニン・アンジオテンシン)による調節によって、
アルドステロン(コルチゾールのアルドステロン作用ではなく、本家アルドステロン)の分泌は正常に戻ります。
つまり、ATCH単独欠損では、アルドステロンの分泌は正常範囲です。
(副腎皮質自体が障害を受けたときにコルチゾール低下+アルドステロン低下が起こる。)
無視していい話
しかしながら、Sheehan症候群の初期(上記の①の状況)で
喪失したナトリウムや増加したカリウムを是正するまではアルドステロンは亢進できないので、
低ナトリウム・正常カリウムとなります。
また、アルドステロン作用はAld分泌の作用+コルチゾールのNa再吸収作用の合計値と考えると、
Sheehan症候群ではコルチゾールの分泌が低下しているので、
総アルドステロン作用は減少していると考えても良いかもしれません。
以上をまとめると、
Sheehan症候群では
- ①初期:ACTH欠損・アルドステロン低下・コルチゾールのAld作用の低下による低Na+高K
- ②慢性期:ADH作用による希釈(低Na+低K傾向) >>> (アルドステロン正常化によるNa微増+K微減)
が組み合わさり、血中ナトリウム低値・血中カリウム正常となります。
Kの動態を考えるのが面倒な疾患は
Sheehan症候群(K正常)とSIADH(K正常)の2つだね。
覚えちゃうのもアリ。
あとは、紛らわしい症候をチェックして確認問題に行きましょう!
Sheehan症候群の症候の機序
TSH欠損で貧血になる理由
TSH欠損=甲状腺機能低下では、全身の代謝が低下します。
代謝が低下すると、末梢組織の酸素需要が低下します。
酸素需要が低下すると、血中の酸素濃度は高く保たれるため、腎臓のエリスロポエチンの産生が抑制されます。
血中のエリスロポエチン濃度が低下すると、骨髄における赤血球生産が低下します。
したがって、貧血になります。
結局、「甲状腺機能低下→骨髄でも代謝低下→貧血」って考えればOK
ACTH欠損で好中球減少になる理由
ACTH欠損ではコルチゾールの分泌が減少します。
コルチゾールは「血管内から血管外(組織)への好中球の遊走を阻害する作用(抗炎症作用)」があります。
したがって、コルチゾール低下にて、好中球が血管外へ漏れ出し、採血で好中球減少となります。
副腎皮質ステロイド(コルチゾール)の副作用として、
感染症が有名だよね?
そうだね!
組織に好中球が遊走できなくなるから感染しやすくなるんだね。
副腎皮質ステロイド→甲状腺ホルモンの順で治療する理由
有名なので、興味のある人だけどうぞ。
副腎皮質ステロイド→甲状腺ホルモンの順で治療する理由
Sheehan症候群など、下垂体前葉機能低下症の患者では、甲状腺ホルモンもステロイドも不足しています。
このとき、甲状腺ホルモンをステロイドより先に投与してしまうと、副腎クリーゼが起こるため禁忌です。
(甲状腺ホルモンにより代謝が上がって低血糖が悪化したり、脱水が悪化してショックになる。)
まずは、ステロイドで血糖値を正常化し、その後で甲状腺ホルモンを投与しましょう。
確認問題:医師国家試験問題にチャレンジ
医師国家試験【106D37】
35歳の女性。2か月前からの全身倦怠感を主訴に来院した。1年前に会社の健康診断で貧血と高コレステロール血症とを指摘されたが、精査を受けたことはない。2年前に、分娩時に大量出血し、輸血を受けたことがある。授乳経験はない。月経周期は不整である。身長162cm、体重50kg。脈拍60/分、整。血圧84/60mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見:赤血球350万、Hb 9.1g/dL、Ht 25%、白血球6,800、血小板18万。血液生化学所見:空腹時血糖68mg/dL、総コレステロール269mg/dL、AST 26U/L、ALT 21U/L、CK 297U/L(基準30~140)、Na 126mEq/L、K 4.9mEq/L、Cl 94mEq/L、Fe 18μg/dL、TSH 0.3μU/mL(基準0.2~4.0)、FT4 0.6ng/dL(基準0.8~2.2)、コルチゾール1.6μg/dL(基準5.2~12.6)。
まず選択すべき治療薬として適切なのはどれか。
a HMG-CoA還元酵素阻害薬
b 副腎皮質ステロイド
c 甲状腺ホルモン
d ブドウ糖
e 鉄剤
答えは b
- 分娩時に大量出血→Sheehan症候群のキーワード。
- 授乳経験なし→プロラクチン欠損
- 月経周期不整→LH・FSH欠損
- 低血糖→GH欠損orACTH欠損
- 貧血・高コレステロール血症→TSH欠損
などなど、Sheehan症候群の症候・検査所見が並べられている。
「Na 126mEq/L、K 4.9mEq/L」つまり、「低ナトリウム血症+高カリウム血症」になっている点は非典型的だが、
Sheehan症候群の初期という理解で、気にしないのが吉だと思われる。
医師国家試験【107D9】
疾患と電解質異常の組合せで誤っているのはどれか。
a 成人T細胞白血病 ——— 高カルシウム血症
b 偽性Bartter症候群 ——— 低カリウム血症
c 下垂体前葉機能低下症 ——— 高カリウム血症
d 偽性副甲状腺機能低下症 ——— 低カルシウム血症
e ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉 ——— 低ナトリウム血症
答えは c
下垂体前葉機能低下の代表疾患はSheehan症候群。
「Sheehan症候群ではKは正常」は覚えるのもアリ。
医師国家試験【108D59】
39歳の女性。全身倦怠感を主訴に来院した。10日前から倦怠感が出現し、増強してきたという。35歳の第1子分娩時に輸血歴がある。分娩後も無月経が持続している。2か月前に、職場での健康診断を契機に甲状腺機能低下症と診断され、自宅近くの診療所でサイロキシン補充療法が開始されている。家族歴に特記すべきことはない。身長154cm、体重48kg。脈拍76/分、整。血圧104/70mmHg。顔面の表情はやや乏しく、顔面を含め全身の皮膚の色調は白い。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。甲状腺腫を触知しない。浮腫を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)。
異常がみられる可能性が高いのはどれか。3つ選べ。
a K
b Na
c 血糖
d 白血球分画
e クレアチニン
答えは bcd
分娩時の輸血歴=大量出血が疑われる。
無月経・甲状腺機能低下・皮膚の蒼白(ACTH低下による)より、Sheehan症候群が疑わしい。
「Sheehan症候群ではKは正常」がやっぱりポイント。
Sheehan症候群では低ナトリウム・高血糖・好中球分画増加が見られる。
終わりに
お疲れ様でした。
参考になれば幸いです。
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